東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)163号 判決
一 原告主張の請求原因事実のうち、特許庁における手続の経緯、本願考案の実用新案登録請求の範囲、審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二(一) 審決を取消すべき事由(一)について
本願考案の実用新案登録請求の範囲中には、原告の主張する「現世及後世」、および「考案」の字句が存在する事実は、当事者間に争いがない。しかし、ここにいう「現世及後世」は、本願考案の再影映紙を使用する時期を意味する字句であり、本願考案の目的に照らせば、この再影映紙を使用する時期が現世および後世であることは全く自明の事柄である。してみれば、このように自明な使用時期は、本願考案の構成に欠くことができない事項ということはできないから、本来実用新案登録請求の範囲に記載すべき事項ではなく(実用新案法第五条第四項)、したがつて、また本願考案の要旨に属するものであるということもできない。
また、「考案」なる字句は、本願考案の構成に属するものではないから、本来実用新案登録請求の範囲に記載すべき事項ではなく、したがつて、また本願考案の要旨に属するものであるということもできない。
それ故、審決が本願考案の要旨を認定するに当り、これらの字句を欠いたからといつて、審決が本願考案の要旨を誤認したものということはできない。
(二) 審決を取消すべき事由(二)について
成立に争いない甲第三号証によれば、第一引用例は洋服等の採寸を行う装置に関するものであることが認められるから、本願考案とその目的を同じくするものとはいえない。しかし、第一引用例のものでも、マスク、帽子およびずきん等の採寸のためには本願考案と同様に人間の顔面、頭部等を投影の対象とすることができるから、原告の主張するように本願考案と第一引用例とで投影の対象が異なるものということはできない。
本願考案が第二引用例記載の自然法則を利用したものであることは、原告の自認するところである。原告は、本願考案は顕著な作用効果を有し創作性のあるものである旨主張する。しかし、その主張する効果は、多分に原告の主観的な評価に基づくものであつて、帰するところ第一、第二引用例のそれぞれに固有の効果を単に寄せ集めたものにすぎない。
本願考案は、第一引用例の採寸用紙を型紙としてこれから不透光性の合同の紙を作製し、この紙を第二引用例の影絵用とする際に格別の工夫がされているとは認められないので、第一、第二引用例より当業者がきわめて容易に想到することができるものというほかはない。
なお、原告は、第一引用例のものおよび実用新案公報第一六三一〇号のものが実用新案登録されている以上、同様に影の自然法則を利用した本願考案も登録されるべきである旨主張する。しかし、本訴においては、本願考案が第一、第二引用例よりきわめて容易に考案することができるものであるかどうかを判断すれば足りるのであつて、他にどのような考案が実用新案登録されているかということは、必ずしも判断の結論に影響を及ぼす筋合のものではない。したがつて、本願考案を原告主張の考案と同様に取扱わなかつたといつてそれだけで審決を違法であるとすることはできない。
三 よつて、審決には原告主張の違法はないから、原告の請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四〇年五月一九日、名称を「現在及び将来に本人の影を実物大に再映する再影映紙」とする考案について実用新案登録出願をした。ところが、昭和四八年一二月一八日拒絶査定があつたので、原告は、同四九年三月五日審判を請求し、同年審判第一二二七号事件として審理されたが、同年一〇月一日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年一一月一六日原告に送達された。
二 本願考案の実用新案登録請求の範囲
再影映紙を本人(実物)の代りに、現世及後世に使用して、本人と同一の実影を、障子(其他の紙面)もしくは消ガラス、曇ガラス等に再映できるように考案した紙(ブリキ、トタン板、平板等の類似品を含む)
三 審決理由の要点
本願考案の要旨は、「再影映紙を本人(実物)の代りに使用して本人と同一の実影を、障子(其他の紙面)もしくは消ガラス、曇ガラス等に再映できるようにした紙(ブリキ、トタン板、平板等の類似品を含む)。」である。
これに対して、実公昭三六―七〇六一号公報(以下「第一引用例」という。)には、「曇ガラス等の透光板を嵌装した枠体の一方側に採寸用紙を装架し、他方側に人物及び光源を配置した投影採寸装置」が記載され、また、昭和三〇年五月二五日岩波書店発行、新村出編「広辞苑」第三七八ページ〔影絵〕(以下「第二引用例」という。)には、「影絵とは人物、鳥獣などを模した形を灯火に照らして、障子・壁などにうつす遊戯。」という旨が記載されている。
なお、第一引用例において採寸用紙が半透光性であることはその技術内容上明らかであり、また、第二引用例において人物・鳥獣などを模した形のものは半透光性より不透光性の方が、障子・壁などにうつる影が鮮明になることは光学上事理の当然である。
そして、本願考案は、第一引用例の採寸用紙を型紙としてこれから不透光性の合同の紙を作製し、この紙を第二引用例の影絵用としたものであつて、単に両引用例を寄せ集めたものにすぎず、当業者がきわめて容易に想到することができたものであるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。